①ー15.16

◆漢文(原文)
爾時仏放眉間白毫相光。照東方万八千世界。靡不周遍。下至阿鼻地獄。上至阿迦尼咤天。

於此世界。尽見彼土。六趣衆生。 又見彼土。現在諸仏。 及聞諸仏。所説経法。 并見彼諸比丘。比丘尼。優婆塞。優婆夷。諸修行得道者。 復見諸菩薩摩訶薩。種種因縁。種種信解。種種相貌。行菩薩道。 復見諸仏。般涅槃者。復見諸仏。般涅槃後。以仏舎利。起七宝塔。

▲訓読よみ
そのときに仏、眉間白毫相の光を放って、東方万八千の世界を照らしたもうに周徧せざることなし。下阿鼻地獄に至り、上阿迦尼咤天に至る。

此の世界に於いて、尽く彼の土の六趣の衆生を見、又彼の土の現在の諸仏を見、 及び諸仏の所説の経法を聞き、 並に彼の諸の比丘・比丘尼・優婆塞・優婆夷の諸の修行し得道する者を見、 復諸の菩薩摩訶薩の種々の因縁・種々の信解・種々の相貌あって菩薩の道を行ずるを見、 復諸仏の般涅槃したもう者を見、復諸仏般涅槃の後、仏舎利を以て七宝塔を起つるを見る。

◎現代語訳
その時に仏さま(お釈迦さま)は、眉間にある白い巻き毛から一条の光を放って、東方の一万八千の世界を隅から隅まで照らし出された。その光は、下は阿鼻地獄にまで、上は阿迦尼咤天にまで至りました。

そこに集っていたもの達は、お釈迦様が映し出した一万八千の東方の世界で、地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、神々の六道を輪廻するもの達を見ました。 また、その世界それぞれに仏様がいらっしゃるのが見え、仏様がそれぞれの世界に応じて説かれている教えが聞こえました。 また、多くの男女の僧侶、男女の在家信者がそれぞれに修行に励んで悟りを開く姿も見えました。 また、多くの偉大な菩薩様達が、なぜ菩薩になったのかを自覚し、仏様の全ての教えを信仰し、菩薩として相応しい姿をし、我が身を惜しまず人々の為に生きる姿を見ました。 また、それぞれの仏様が涅槃に入られるのが見え、その遺骨をお祀りする七宝塔が建立されるのを見ました。

★そのこころは??
さて、皆さん、13からここまで、十二の現象が現れたのが分かりましたでしょうか?
この十二の現象の前半の六つの現象を

「此土の六瑞(しどのろくずい)」、

後半六つを

「他土の六瑞(たどのろくずい)」

といいます。

此土とは、この世のことで、人界娑婆世界をいいます。
他土とは、此土の六瑞の最後「放光瑞」で照らされた東にある一万八千の世界のことです。

一つずつ説明してみましょう。

◎此土の六瑞

①説法瑞・・・お釈迦様がお説法をされたことです。

②入定瑞・・・お釈迦様の、心の乱れを完全に平穏に安定させることのできた瞑想の境地に入られたお姿。

③雨華瑞・・・お釈迦様のお説法の場に、そらから様々な花が降り、聴衆の心を悦ばせた出来事です。
お寺の法要中、お坊さんが紙で作った花を撒くのは、この出来事に由来します。

④地動瑞・・・その場が大きく揺れ動いた現象です。

⑤衆喜瑞・・・その場にいた全ての聴衆が、心から喜びを感じ、お釈迦様を見つめています。

⑥放光瑞・・・お釈迦様の眉間から光が放たれ、東にある一万八千の世界を隅々まで照らされました。

◎他土の六瑞

①見六趣瑞・・・東方の世界にいる、六趣(地獄界~天界)で迷っている人々を映し出しました。

②見諸仏瑞・・・東方の世界にいらっしゃる仏様達が映し出されました。

③見聞諸仏説法瑞・・・その仏様達が、多くの人々に教えを説き救済されているところが見えます。

④見四衆生得道瑞・・・東方の世界で、修行に励む出家僧侶や信者達が悟りを得ていく姿も見えます。

⑤見行瑞・・・多くの菩薩達が、人々の救済に邁進されている姿も映し出されます。

⑥見帰涅槃瑞・・・それぞれの仏様が涅槃に入られるのが見え、その遺骨をお祀りする七宝塔が建立されるのを見ました。

この十二の現象は、これから説かれる教えが「法華経」である為に起こった特別な現象なのです。
この現象を目の当たりにした二百万を超える聴衆は、これから展開される弥勒菩薩と文殊師利菩薩のやりとりを聴いて、その特別なることを理解していきます。

他土の六瑞では、六道で苦悩する存在と対比して、自分の幸せはさておいて、誰かの救済の為に邁進される仏様や菩薩様の姿が映し出されています。
これは、お釈迦様の、聴取や後世の私達に対する問いかけです。

・あそこに見える苦悩する者を見なさい。彼らは、自分の幸せだけを望んでいます。

・仏や菩薩はどうでしょうか。誰かの幸せの為に生きているのです。

・あなた達はどうですか?自分の幸せの為だけを考えていませんか?

・自分の幸せばかりを追い求めていることで、それが苦悩になっているのではありませんか?

・あそこで苦しむ者の心、仏や菩薩の心、そして自分の心を理解できなければ、法華経は理解できないのです・・・

これから法華経を説かれようとするお釈迦様の、これから法華経を理解しようとする私達に対する一番最初の問いかけでもあるのです。

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byakugou

柴又帝釈天題経寺の彫刻「妙法蓮華経序品第一」と、王舎城があったラジギール)

※注釈

●眉間白毫毫相(みけんびゃくごうそう)
仏がそなえているという三十二の優れたお姿の一つで、眉間にある白毛右巻きの渦巻きのことです。

jigoku●阿鼻地獄
別名無間地獄ともいわれ、八大地獄のうち、地下の最深部にある最悪の地獄と言われています。

●阿迦尼だ(口宅)天
色界の中でも最上位で、色究きょう(立に見)天ともいわれ、姿形のあるものの中で、欲望から離れて最も清らかな存在の住む世界を言います。

(右写真上は、眉間白毫相)
(右写真下は、地獄絵図 西福寺絵)

●六趣
六道のこと。六道とは、地獄界、餓鬼界、畜生界、修羅界、人間界、天界。迷いあるものは、この六つの世界を生まれ変わり死に変わり輪廻するといわれています。それを「六道輪廻」といいます。

●得道
成仏得道。仏道を修行して悟りを開くこと。成仏。

●因縁
因と縁。結果を生む内的な直接原因を因、外からこれを助ける間接原因を縁といいます。 全ての存在は、この因縁によって生まれ、因縁によって滅するとされます。

●信解
教えを信じることによってその教えを体得・会得すること。

●相みょう
姿形。目に見える姿、表情、眼差し。

●般涅槃
永遠に完全なる悟りを得ること。心の煩悩を完全に超越した成仏得道。
●仏舎利
お釈迦様の御遺骨です。
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●七宝塔
金、銀、瑠璃 などの七つの宝石で造られた塔。

(右写真は、藤沢 龍口寺 仏舎利塔)