①-17.18.19

◆漢文(原文)
爾時弥勒菩薩。作是念。今者世尊。現神変相。以何因縁。而有此瑞。今仏世尊。入于三昧。是不可思議。現希有事。当以問誰。誰能答者。復作此念。是文殊師利法王之子。已曾親近供養。過去無量諸仏。必応見此。希有之相。我今当問。

爾時比丘。比丘尼。優婆塞。優婆夷。及諸天龍鬼神等。咸作此念。是仏光明。神通之相。今当問誰。

爾時弥勒菩薩。欲自決疑。又観四衆。比丘。比丘尼。優婆塞。優婆夷。及諸天龍鬼神等。衆会之心。而問文殊師利言。以何因縁。而有此瑞。神通之相。放大光明。照于東方。万八千土。悉見彼仏。国界荘厳。


▲訓読よみ
そのときに弥勒菩薩この念なさく、『いま世尊、神変の相を現じたもう。何の因縁をもってこの瑞ある。いま仏世尊は三昧に入りたまえり。この不思議に希有の事を現ぜるを、まさにもって誰にか問うべき、誰かよく答えんものなる』またこの念を作さく、「『この文殊師利法王の子は、すでにかつて過去無量の諸仏に親近し供養せり。かならずこの希有の相を見るべし。我れいままさに問うべし。』

そのときに比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷およびもろもろの天、竜、鬼神等、ことごとくこの念を作さく、『この仏の光明神通の相を、いままさに誰にか問うべき。』

そのときに弥勒菩薩みずから疑いを決せんと欲し、また四衆の比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷およびもろもろの天、竜、鬼神等の衆会の心を観じて、文殊師利に問うて言わく、 「何の因縁をもってこの瑞神通の相あり、大光明を放ち東方万八千の土を照らしたもうに、ことごとく彼の仏の国界の荘厳を見る。」

◎現代語訳
弥勒菩薩さまはこう思いました。『今お釈迦さまのお力によって不思議な光景を目の当りにしました。なぜこのような現象を引き起こしたのでしょうか?今お釈迦さまは禅定に入られたので、この不思議な光景を誰に尋ねたら良いのでしょうか?誰が答えてくれるでしょうか?文殊菩薩さまは過去に多くの仏さまにお仕いされてきました。きっとこのような光景を御覧になったことでしょうから、お尋ねしてみましょう。』

その場にいた僧侶と尼僧、男女の信者さん、天神、龍神や鬼神などもまた、『仏さまより放たれたこの光、不思議な光景を誰に尋ねたらよいだろうか』と思ったのでした。

弥勒菩薩さまは自身の疑問を解決しようと、また僧侶と尼僧、男女の信者さん、天神、龍神、鬼神などその場に居合わせた方々の心の内を察して、文殊菩薩さまに尋ねました。「お釈迦さまの眉間から光が放たれ、東方のとてつもなく広い国々が映し出され、六道輪廻のあらゆる世界、地獄から天界、菩薩さま、仏さまの様子を私たちは目にしました。なぜお釈迦さまはこのような不可思議なお力を発揮されたのですか?」


★そのこころは??
お釈迦さまはまだ何もお話されていません。眉間から放たれた大きな光は、見たこともない国にいる仏さまや人々の姿を映し出しました。その場に居合わせた弥勒菩薩さまをはじめ、多くの方が不思議に思われました。かつてないその光景に弥勒菩薩さまは智慧第一の文殊菩薩さまであれば、何かご存じではありませんか?とお尋ねしようとしているのですね。それは弥勒菩薩さま自身の疑問を解決するためだけでなく、多くの方々のためでもありました。弥勒菩薩さまの活躍はこの先にも見られますが、その場の聴衆のため、また未来に教えを残すためにと、お釈迦さまや他の菩薩さまに質問をされます。この深い慈悲心を察して、お釈迦さまは56億7千万年先に、この娑婆世界で仏となり、教えを広めるであろうと弥勒菩薩の未来世を語られたのですが、それはまた後のお話。。。

(柴又帝釈天題経寺の彫刻「妙法蓮華経序品第一」と、王舎城があったラジギール)


※注釈

●眉間白毫毫相(みけんびゃくごうそう)
仏がそなえているという三十二の優れたお姿の一つで、眉間にある白毛右巻きの渦巻きのことです。

byakugou

●阿鼻地獄
別名無間地獄ともいわれ、八大地獄のうち、地下の最深部にある最悪の地獄と言われています。
(地獄絵図 西福寺絵)

地獄絵図 西福寺絵

●阿迦尼だ(口宅)天
色界の中でも最上位で、色究きょう(立に見)天ともいわれ、姿形のあるものの中で、欲望から離れて最も清らかな存在の住む世界を言います。

●因縁
因縁をつけられた、怖い言葉ですね。嫌な意味合いで用いられることの多い言葉です。 因縁とは仏教の根幹ともいえる思想です。本来は因縁果報、例えば花の種。『花の種(因)を土に埋め(縁)、水を与え(縁)、暖かくなり始めると(縁)、芽が出て、花が咲く(果)。それを見た通勤途中のサラリーマンは春を感じ、心安らぐ(報)。そのサラリーマン(因)は会社で清々しい気分で元気に挨拶をすると(縁)、上司も部下も元気な声に士気が高まり(果)、一日職場が良い雰囲気になった。(報)雰囲気の良くなった職場に(因)・・・・』 と一つの物や人の姿が巡り巡って、形や場所を変えて、巡り巡って新たなものを生んでいく。 この場面ではなぜ仏さまの眉間から光が放たれたのか?また放たれた光が何を及ぼすのか? 皆が大いなる期待を胸にしているのです。

●三昧
一心に専念し、雑念を払った状態を言います。 読経三昧(ひたすら読経する)や禅定三昧(座禅し瞑想する)という修行があります。皆さんはいかがでしょう。読書三昧、グルメ三昧というのもありますね。~三昧がお好きですか?

●不可思議
仏さまの智慧は思い計ることの出来ないという意味です。先記の『因縁』でも記した通り、たった一つの花の種が職場の雰囲気を変えるということが仏さまは瞬時に思いを馳せることが出来るのです。人智では思いも及ばぬことを仏さまは巡り巡った先までも見通すことが出来るのです。

●文殊師利法王子
智慧を司る菩薩とされ、「三人よれば文殊の智慧」ということわざがあるほどです。
(文殊師利菩薩像)

monnju

●比丘・比丘尼
出家をした男性の僧侶を比丘、女性の僧侶を比丘尼と言います。

●優婆塞・優婆夷
お釈迦さまの教えを信奉する在家の信者で男性を優婆塞(うばそく)、女性を(うばい)と言います。